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ミトコンドリア・ハプログループD4a1は本当に渡来系なのか?【続】 [ゲノム解析で古代史]

前回からの続きです。

日本人になった祖先たち DNAから解明するその多元的構造 (NHKブックス)

日本人になった祖先たち DNAから解明するその多元的構造 (NHKブックス)

  • 作者: 篠田 謙一
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2007/02/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

↑第5章の最初にあるグラフ↓ですが、中国の数値(D4→黒にの背景に白字)が全部間違っている模様です[たらーっ(汗)]

shinoda0.png

元の論文は、巻末の参考文献から探すと、どうやら"Phylogeographic Differentiation of Mitochondrial DNA in Han Chinese"だと思われます。

さて、このTable 4↓のD4(赤線)の中には、D4kという値がありますが、これには"D minus D5 is taken as a proxy for D4"と注釈(下の赤のアンダーライン)があり、つまりD4の値そのものです。

shinoda.png

奇妙なことに、この値をD4の各サブクレードの合計に加えてしまっているようで、本来の値のちょうど倍になっています。例は次のとおりです。


・D4の値は38.2%ですが、正しくは19.1%?


・D4の値は35.2%ですが、正しくは17.6%?
・D5の値(青線)は6.4%ですが、5.9%が正しい?

③④
・D4の値は本来の値のちょうど倍?

また、このグラフにはサンプルサイズが書いてないのです。
元の論文では、1カ所について50人程度なので、さすがにこれでは少なすぎ?

ひょっとして、旧版からもそのまま?

また、ハプログループDは「弥生時代になって日本に入ってきたと考える方が自然」とありますが、これまた間違いのようです。というのは、縄文人にもあるから↓です(赤)。

Diversity in matrilineages among the Jomon individuals of Japan
Fuzuki Mizuno et al.
Annals of Human Biology 2023
https://doi.org/10.1080/03014460.2023.2224060
mizuno.png

大丈夫なのかな?

なお、日本のデータについては、本人も執筆者になっている"Mitochondrial Genome Variation in Eastern Asia and the Peopling of Japan"と思われます。
サンプルサイズは1312のようです。

2004年発表ということだから、20年近く前のデータです。いくらなんでも、古すぎでは?
現在のデータを見ると、D4はこの論文の32%より少し高くなっているようです…。

本当に大丈夫なのかな?


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ミトコンドリア・ハプログループD4a1は長生きなのか? [ゲノム解析で古代史]

前回の記事に関連して、面白い論文を見つけました。

ミトコンドリア・ハプログループD4aは長生きのマーカーだというのです。
ひょっとしたら、水田稲作に向いているのかもしれません。

Mitochondrial DNA Haplogroup D4a Is a Marker for Extreme Longevity in Japan
Erhan Bilal et al.
PLOS ONE 2008
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0002421

pone.0002421.g004.png

それなら、弥生時代になってからD4a1が急増した理由も納得です。

また、中国でも同じ結果が報告されています。

Association of Mitochondrial DNA Haplogroups with Exceptional Longevity in a Chinese Population
Xiao-yun Cai et al.
PLOS ONE 2009.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0006423

別な論文も見つけました。

Relationship between mitochondrial haplogroup and psychophysiological responses during cold exposure in a Japanese population
TAKAYUKI NISHIMURA et al.
Anthropological Science 2011.
https://doi.org/10.1537/ase.101009

この論文によると、ハプログループD4は寒さに強いそうです。

どれが本当なのかな?
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ミトコンドリア・ハプログループD4a1は本当に渡来系なのか? [ゲノム解析で古代史]

前回の記事では、通説では渡来系とされているD4a1↓は、意外と現代日本人に多いと書きました。
D4a1.PNG

常識的に考えると、このハプログループが朝鮮半島由来だとすると、日本人よりは割合が高いはずです。

そこで、現代日本人と現代韓国人の割合を調べることにします。

とは言っても、ハプログループD4a1に限定するのは難しいので、D4の割合を調べてみました。

日本人についてですが、このサイトによれば、篠田謙一氏『日本人になった祖先たち』に、D4は32.61%とあるのだそうです。

haproD4.PNG

日本人になった祖先たち DNAから解明するその多元的構造 (NHKブックス)

日本人になった祖先たち DNAから解明するその多元的構造 (NHKブックス)

  • 作者: 篠田 謙一
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2007/02/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

韓国人については、とりあえず英語版Wikipediaなどで調べてみたところ、2つのデータが見つかりました。

1. The Peopling of Korea Revealed by Analyses of Mitochondrial DNA and Y-Chromosomal Markers
Han-Jun Jin et al.
PLoS One. 2009; 4(1): e4210.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0004210
The highest (23.8%) frequency in the Korean mtDNA pool was observed for haplogroup D4, which is widespread in northern East Asia and especially in the Korean-Chinese (21.6%), and Manchurians (20.0%). In total, haplogroup D lineages including the subhaplogroups (D4, D4a, D4b, D5, and D5a) accounted for 32.4% of the Korean mtDNA pool.
→23.8% (185人を調査)

2. Phylogeographic Analysis of Mitochondrial DNA in Northern Asian Populations
Miroslava Derenko et al.
American Journal of Human Genetics 2007
https://doi.org/10.1086/522933

haproD4k.PNG
→32.0% (103人を調査)

なんと、どちらも日本人の32.61%より割合が低いのです!
※1より2の方がサンプルが少ないので、2の32.0%という数字は高めに出ているかもしれません…。

1によると、半島から北に行くほど割合が低下するので、日本→朝鮮半島→中国大陸というルートの方がありそうです。

また、D4a1の発生は1万年ぐらい前と推測されていますが、当時は事実上無人だった朝鮮半島で発生するとは考えにくいです。

これらのことから、渡来系とされているD4a1は、もともとは縄文人の住んでいた日本で発生した可能性が高いと思われます。

だんだん馬鹿馬鹿しくなってきますね。
なんだかなぁ~。

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現在までの縄文人のミトコンドリア・ハプログループ [ゲノム解析で古代史]

自分のための備忘録です。
現在までの縄文人のミトコンドリア・ハプログループをまとめました。
それにしても、2023年の水野文月さんの論文はすごいですね。

ところで、WikipediaでハプログループD(英語版)を見ると、結構日本が多い。
特に、通説では渡来系とされているD4a1↓は、意外と現代日本人に多く、
D4a1.PNG
おそらく日本列島が起源ではないかと思うんですが、これだけではなんとも言えませんね。

○学際的研究で明らかにする関東地方縄文時代人の人類学的・考古学的実像
安達登,坂上和弘,澤田 純明
科研費研究成果報告書 2013
https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-23570280/23570280seika.pdf
kanoto.PNG
※↑左のグラフの関東縄文時代人のD4は11人(56人×19.4%=11人)のはずなのですが、2023年の水野文月さんの論文のリストには含まれていないようです。ひょっとしたら、これがD4a1?

kanto2.PNG

○佐世保市岩下洞穴および下本山岩陰遺跡出土人骨のミトコンドリアDNA分析
Anthropological Science (Japanese Series)
篠田謙一,神澤秀明,角田恒雄,安達登 2017
下本山2号(女性M7a1a4)及び3号(男性D4a1)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/asj/125/1/125_170509/_pdf

○西北九州弥生人の遺伝的な特徴―佐世保市下本山岩陰遺跡出土人骨の核ゲノム解析
Anthropological Science (Japanese Series)
篠田謙一,神澤秀明,角田恒雄,安達登 2019
下本山2号(女性 mt:M7a1a4)及び3号(男性 mt:D4a1, Y:O)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/asj/127/1/127_1904231/_pdf

○鳥取県鳥取市青谷上寺地遺跡出土弥生後期人骨のDNA分析
国立歴史民俗博物館研究報告
篠田謙一・神澤秀明・角田恒雄・安達登 2020
https://rekihaku.repo.nii.ac.jp/record/2531/files/kenkyuhokoku_219_11.pdf
青谷上地寺0.PNG
青谷上地寺1.PNG
※この報告書には、渡来系が多いとありますが、Y染色体もミトコンドリアも、その多くが縄文人にもあるタイプのようです。

○鹿児島県宝島大池遺跡B地点出土貝塚前期人骨のDNA分析
国立歴史民俗博物館研究報告
神澤秀明,角田恒雄,安達登,篠田謙一 2020
大池1号 M7a1a
https://rekihaku.repo.nii.ac.jp/record/2539/files/kenkyuhokoku_219_19.pdf

○鳥取県鳥取市青谷上寺地遺跡出土弥生後期人骨の核DNA分析
国立歴史民俗博物館研究報告
神澤秀明・角田恒雄・安達登・篠田謙一 2021
https://rekihaku.repo.nii.ac.jp/record/2670/files/kenkyuhokoku_228_24.pdf
青谷上地寺2.PNG
青谷上地寺3.PNG

○鹿児島県徳之島所在遺跡出土人骨のミトコンドリアDNA分析
国立歴史民俗博物館研究報告
篠田謙一・神澤秀明・角田恒雄・安達登・竹中正巳 2021
https://rekihaku.repo.nii.ac.jp/record/2687/files/kenkyuhokoku_228_41.pdf
徳之島.PNG

○鹿児島県内出土縄文人骨のミトコンドリアDNA分析
国立歴史民俗博物館研究報告
篠田謙一・神澤秀明・角田恒雄・安達登・竹中正巳 2021
https://rekihaku.repo.nii.ac.jp/record/2681/files/kenkyuhokoku_228_35.pdf
鹿児島県内.PNG

○茨城県教育財団文化財調査報告第446集
下河原崎高山古墳群2
令和2年3月
上河原崎・中西特定土地区画整理
事業地内埋蔵文化財調査報告書6
骨番号512 不明
骨番号593 D4j?
骨番号594 G2
骨番号595 D4a?
骨番号611 A
骨番号871 D4e
骨番号963 D4
骨番号1015 D4
https://sitereports.nabunken.go.jp/files/attach/36/36886/71156_1_%E4%B8%8B%E6%B2%B3%E5%8E%9F%E5%B4%8E%E9%AB%98%E5%B1%B1%E5%8F%A4%E5%A2%B3%E7%BE%A4%EF%BC%92.pdf
下河原崎高山.PNG

○本土日本人の起源の解明:弥生時代のゲノム解析
水野文月
科研費報告書 2019
https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-17K07588/17K07588seika.pdf
(データなし)

○Population dynamics in the Japanese Archipelago since the Pleistocene revealed by the complete mitochondrial genome sequences
Fuzuki Mizuno et al.
Scientific Reports 2021
https://www.nature.com/articles/s41598-021-91357-2
41598_2021_91357_Fig2_HTML.jpg

○Diversity in matrilineages among the Jomon individuals of Japan
Fuzuki Mizuno et al.
Annals of Human Biology 2023
https://doi.org/10.1080/03014460.2023.2224060
mizuno.png

○Northeastern Asian and Jomon-related genetic structure in the Three Kingdoms period of Gimhae, Korea
Pere Gelabert et al.
Current Biology 2022
https://www.heas.at/wp-content/uploads/2022/06/Gelabert-et-al.-2022_compressed.pdf
current biology.PNG
※この論文には、金海の人々は縄文人と紅山文化人との混血とあり、後者のY染色体のハプログループNが67%と過半数になるはずが、示されているデータにはNがありません。また、紅山文化人のミトコンドリアのデータは見つからないようなので、「混血」の根拠が不明です。逆に、弥生人とするなら、どちらも一致するため、すっきりと説明できます。
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杵築大社が出雲大社と改名した理由 [ゲノム解析で古代史]

ゲノム解析とは関係ないのですが、自分のための古代史の備忘録です。

時間探偵
杵築大社が出雲大社と改名した理由

jikan.JPG

恥ずかしながら、このことは初めて知りました。
「杵築」が大和朝廷に逆らった地域という意味なら、確かに納得できます。
ちなみに、「出雲」は太陽(大和朝廷)を象徴するアマテラスを覆い隠すということでしょうから、これまたまさにそのとおりです。

【引用始め】

聖徳太子の17条憲法の第一条は、「和を以って貴しと爲し忤ふこと無きを宗と爲す」だ。
原文は「一曰。以レ和爲レ貴。无レ忤爲レ宗。」とある。
よく知られている文だが、後半の「忤ふこと無きを宗と爲す」の文を読んで引っかかった。
「忤ふ」という文字である。
古い文字で、音読みはゴ、訓読みは、さからうとある。
さらに調べてみると、杵(きね)の原字だった。
これにより、長年の疑問が解けたのだった。
出雲大社は古来より、杵築(きづき)の郷に由来して、杵築大社(きづきたいしゃ)と呼ばれてきたという。
ちなみに現在の住所は、島根県簸川郡大社町杵築東宮内195。

【引用終り】

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アイヌのY染色体のゲノム解析【追記あり】 [ゲノム解析で古代史]

アイヌのゲノム解析は、なぜかタブーのようです。
数少ないY染色体の解析が次の論文です。

Autosomal and Y-chromosomal STR markers reveal a close relationship between Hokkaido Ainu and Ryukyu islanders
KAE KOGANEBUCHI, TAKAFUMI KATSUMURA, SHIGEKI NAKAGOME, HAJIME ISHIDA, SHOJI KAWAMURA, HIROKI OOTA, THE ASIAN ARCHIVAL DNA REPOSITORY CONSORTIUM
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ase/120/3/120_120322/_article/-char/ja

解説はこちら。

アイヌ人と沖縄人のDNAを比べると・・・(Y染色体ハプログループDの研究)
http://www.jojikanehira.com/archives/15377873.html

Picture-242.png

見ての通り、Short Tandem Repeatのバリエーションはアイヌ人と沖縄人で大きく違います。沖縄人がアイヌ人に対してバリエーションの豊かさを見せています。沖縄人の調査人数に比べてアイヌ人の調査人数が少ないということもありますが、それを差し引いても、大きな差がありそうです。

なお、ミトコンドリアのゲノム解析の結果はこちら。

プレ・アイヌ期の人類集団を捉え直す:北海道先史時代人骨についての総合的研究
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17H03737/

参考です。
【2023.6.11追記】
コメント(2) 

朝鮮半島は8200年前から2万年前ぐらいまでほぼ無人だった【追記1-2あり】 [ゲノム解析で古代史]

驚いたことに、朝鮮半島は8200年前から2万年前ぐらいまでほぼ無人だった、という「韓国人」の論文が出てました。それも、放射性炭素の測定からです。

Chuntaek Seong, Jangsuk Kim [ソウル大学]
Moving in and moving out: Explaining final Pleistocene-Early Holocene hunter-gatherer population dynamics on the Korean Peninsula
https://doi.org/10.1016/j.jaa.2022.101407

確かに、この論文のグラフを見ると(多少の誤差はあるそうですが)そうなっています。

Therefore, we believe that the sharp decline of radiocarbon dates reflects a real and significant episode of depopulation on the Korean peninsula during this period (Fig. 2).

1-s2.0-S0278416522000150-gr2.jpg

そして、このことは従来の考古学的な知見(7000年前から1.2万年前までほぼ無人)ともほぼ一致します。
驚きました。


【2023.6.3 追記1】

この論文では、人口の増減は北部では半島南部とは反対とあります。

Highlights
•The population history of Korea during the final Pleistocene was reconstructed.
•The population increased during colder periods and decreased in warmer periods.
•The population fluctuation of Korea contrasts sharply with northern latitude areas.
•This pattern resulted from overall relocations of networks of hunter-gatherers.
•Social network relocations were driven by environmental changes.

つまり、従来の考古学的な知見で、朝鮮半島(南部…北部はデータなしか?)が7000年前から1.2万年前までほぼ無人となっていたのは、狩猟採集生活をしていた現地人が、温暖化に伴い北部に移動したからだ、ということになります。

実際に、日本の気温を調べてみると、確かに1万9千年ぐらい前から急激に温暖化が進んだことが分かります。「縄文海進」でわかるように、8200年前でもこの温暖化の状況は変わりません…。

01_hendou-768x326.jpg

以上のことから、先史時代の朝鮮半島では、

・最後の氷河期が1万9千年前に終わり、その後に急速に温暖化した
・狩猟採集生活をしていた現地人は、温暖化に伴い北に移動したたため、半島南部はほぼ無人になった
・7300年前の鬼界カルデラの大噴火により、半島南部に相当数の縄文人が移動した
・その後、半島南部の縄文人の人口が急増した

と考えると、事実と非常によく整合することになります[ひらめき]

ただし、この論文では人口急増は8200年前と、7300年前とされる鬼界カルデラの大噴火とは1000年近くの「ずれ」があります。説明には、年代の測定誤差は200年程度とあり、この200年のずれが「誤差」なのかは微妙なところです。

もっとも、喜界カルデラの大噴火は6300年前という説もあり、相当な誤差がありそうです。また、8200年前も7300年前も、2万年前の氷河期から比べると相当気温が高いことには変わりありません。

また、この時期の人口増は、特に南海岸と東海岸で顕著(the Korean Peninsula witnessed the emergence of pottery and a population boom around 8200 BP, especially along the eastern and southern coasts)ということですから、この人口増は縄文人によるものであることは、ほぼ間違いないでしょう。

残念ながら、発掘された土器の情報はありませんでした。縄文土器だったんでしょうか?

もっとも、実物の写真を見れば見るほど、韓国の櫛目文土器は(同時代の)縄文土器とそっくりです。もちろん、当時は日本から土器やその原料となる土を運ぶのは非現実的です。そこで、材料となる土を現地調達し、縄文土器とほぼ同じものを作ったと考えるのが自然でしょう。

スクリーンショット-2021-10-03-15.42.05.jpg

また、この論文には、

The important point is that the mainland peninsula, despite extensive archaeological research especially during the last three decades on river terraces, lowlands and uplands, and coasts and inlands, still does not have reliable archaeological remains for this period, sharply contrasting with neighboring areas such as Japan...
重要なのは、半島本土では、特に過去30年間に河岸段丘、低地と高地、海岸と内陸で大規模な考古学的調査が行われたにもかかわらず、この時代[8200年前から11000年前]の信頼できる考古学的遺物が存在せず、日本などの近隣地域と大きく対照的であることです

ともあり、従来の考古学的な知見(7000年前から1.2万年前までほぼ無人)を裏付けています。

と言った感じで、資料を調べれば調べるほど、従来の考古学的な知見である「7000年前から1.2万年前までほぼ無人」が正しいことが裏付けられる結果となりました[ひらめき]

【2023.6.3 追記2】

やはり、この論文を素直に読む限り、

・1万9千年前に氷河時代が終了し、急激に温暖化が進んだ
・このため、以前から住んでいた人々は、生活様式を保つため北に移動した
・結果として、半島南部は事実上無人になった
・その後、7300年前に喜界カルデラが大噴火し、縄文人が難を逃れて半島南部に移住した
・その裏付けとして、半島南部の遺跡からは、縄文土器と「うり二つの」櫛目文土器と、(日本由来と推測される※)黒曜石が幅広く出土していることが挙げられる

としか考えようがありません…。

以下は、この論文の該当部分の仮訳です。

The wide distribution of obsidian artifacts throughout the peninsula strongly suggests a “non-utilitarian” mobility and interaction network range (Whallon 2006) that maintained north–south ties. Multiple analyses indicate that obsidian artifacts from many archaeological sites of southern Korea were obtained from Mt. Baekdu, located on the present-day China-North Korea border, 500 to 800 km from the sites where they were discovered (Chang and Kim, 2019, Kim et al., 2007, Yi and Jwa, 2015).
半島全体に黒曜石の遺物が広範囲に分布していることは、南北関係を維持していた「非実用的な」移動と交流のネットワーク範囲を強く示唆している (Whallon 2006)。複数の分析により、韓国南部の多くの遺跡から出土した黒曜石の遺物※は、発見場所から500~800km離れた、現在の中国と北朝鮮の国境に位置する白頭山から入手されたことが示されています(Chang and Kim, 2019; Kim et al. 2007; Yi and Jwa, 2015)。

To be clear, we are not arguing that the southern Korean Peninsula was completely abandoned for 10 millennia; it is likely that the southern peninsula was out of hunter-gatherers’ regular mobility range, but may have been visited intermittently, which would have left few well-preserved material remains (Yellen 1977).
誤解のないように言っておくが、私たちは朝鮮半島南部が10000年間にわたって完全に放棄されていたと主張しているわけではない。おそらく半島南部は狩猟採集民の通常の移動範囲外だったが、断続的に訪れていた可能性があり、その場合は保存状態の良い資料遺物はほとんど残らなかったであろう(Yellen 1977)。

※ 黒曜石は白頭山からも産出されますが、成分分析をした結果によると、少なくとも半島南部では日本産の可能性が高いと思われます。しかし、参考文献の内容を書き換えてしまうとは、ちょっと信じられません[たらーっ(汗)]

○Yi and Jwa, 2015. On the provenance of prehistoric obsidian artifacts in South Korea
 https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1040618215007715
 It appears that the prehistoric artifacts from the middle to northern part of South Korea have a genetic relationship with obsidians from the Baekdusan area, whereas those of the southern part are related to Kyushu, Japan.
(韓国の中部から北部にかけての先史時代の遺物は、白頭山地域の黒曜石と遺伝的関係があり、南部の遺物は日本の九州と関係があるようだ。)

○Chang and Kim, 2019. Source Identification Analysis of Obsidian Unearthed from the Korean Peninsula
https://www.kci.go.kr/kciportal/ci/sereArticleSearch/ciSereArtiView.kci?sereArticleSearchBean.artiId=ART002477647
 2. PNK1 obsidian has a number of variations, according to the ratio of barium or strontium contained. Obsidian tools unearthed from the central and northeastern region of Korean Peninsula originated from Mt. Baekdusan (Paekdusan) throughout all periods. Obsidian tools from the Japanese Archipelago have only been identified in the southern part of the Korean Peninsula.
(2. PNK1黒曜石は、含まれるバリウムやストロンチウムの割合により、いくつかのバリエーションがある。朝鮮半島中部および東北地方から出土する黒曜石の道具は、どの時代を通じても白頭山に起源を持つ。日本列島の黒曜石の道具は、朝鮮半島の南部でのみ確認されている。)
 7. According to the analysis, Mt. Baekdusan obsidian was not present in the islands of the southern region of the Korean Peninsula.
(7. 分析結果によると、白頭山黒曜石は朝鮮半島南部の島々には存在しなかった。)

○小野昭
 資源環境の中の黒曜石方法上の展望
 https://www.meiji.ac.jp/cols/english/research/6t5h7p00000de6rx-att/ono.pdf
 白頭山の黒曜石原産地については産地を細分してPNK1,PNK2,PNK3を区分する(Popov,etal. 2005)が,良質なPNK1はアクセス可能な白頭山の中国側産地では発見されていない。そのため厳密に突きつめていくと「伝」白頭山として認識するしかない問題に逢着する。この問題は当面解決しない。白頭山の黒曜石が韓国内の旧石器時代遺跡で利用されたことをしめしたKim,etal.2007論文とは別に,Cho,etal.の論文(Cho, etal.2010)では同じ考古遺跡からの試料で白頭山は同定されていない。明らかに矛盾が生じている。

○白頭山の黒曜石、旧石器時代に大邱にまで(東亜日報 2018.1.18)
https://www.donga.com/jp/article/all/20170118/828233/1
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星野盛久さん 「邪馬台国」、その結論 [ゲノム解析で古代史]

この本はすごいですね。もう少し早く読んでおくべきでした[たらーっ(汗)]

邪馬台国までの距離が通常の「長里」の1/10である「短里」を採用した理由、そして人口も実数の1/10である理由が明確に書いてあります。


「邪馬台国」、その結論

「邪馬台国」、その結論

  • 作者: 星野 盛久
  • 出版社/メーカー: 学術研究出版
  • 発売日: 2022/06/11
  • メディア: 単行本


あおきてつおさんの「邪馬台国は隠された」の内容を大幅にグレードアップした感じです[るんるん]


マンガ家が解く古代史ミステリー 邪馬台国は隠された <改訂版>

マンガ家が解く古代史ミステリー 邪馬台国は隠された <改訂版>

  • 作者: あおきてつお
  • 出版社/メーカー: 三冬社
  • 発売日: 2022/01/23
  • メディア: 単行本


ただ、悲しいかな、こういう真面目な本は売れないんですよね…[もうやだ~(悲しい顔)]

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10ミニッツTV 『三国志』から見た卑弥呼(1)『魏志倭人伝』の邪馬台国 [ゲノム解析で古代史]

魏志倭人伝に書かれた邪馬台国の謎…。
その謎を解く貴重なヒントがあります。

10ミニッツTV
異民族の記録としては異例な魏志倭人伝と邪馬台国 『三国志』から見た卑弥呼(1)『魏志倭人伝』の邪馬台国
渡邉義浩渡邉義浩早稲田大学常任理事・文学学術院教授

スクリーンショット 2023-04-09 083121.png

●12000里の彼方、南の大国・邪馬台国
●倭人の記述が非常に多い『三国志』
●『三国志』の中の二つの貴重な王号「親魏○○王」
→その二つは、親魏倭王と親魏大月氏国王
→著者は、魏の後継国家である西晋の陳寿。
→当時の邪馬台国は、あまりよく知られていない。
→西晋の基礎を築いた司馬懿の功績を称えるため、彼の功績で朝貢した邪馬台国は、大月氏国より「少し遠く、少し大きく」書く必要があった。
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「二重構造説」への疑問 [ゲノム解析で古代史]

自分のための備忘録です。

threepinnerさんの元ツイートは次のとおりです。 さて、現時点では、日本人のDNA構成で主流となっている学説は「二重構造説」です。
この説は、現代日本人のDNAは、それまで狩猟採集生活をしていた縄文人のDNAと、3000年前頃から、水田稲作技術を持って半島や大陸から渡来した弥生人のDNAとの「二重構造」になっているというものです。
オリジナルは、埴原和郎氏の「日本人の成り立ち」(1990年)にあり、1990年代に主流になったそうです。

日本人の成り立ち

日本人の成り立ち

  • 作者: 埴原 和郎
  • 出版社/メーカー: 人文書院
  • 発売日: 1995/11/01
  • メディア: ハードカバー

出所 斎藤 成也 国立遺伝学研究所
学術俯瞰講義 「いのち」のシステムを解き明かす ゲノムから読み解く 日本人の起源

以下に、二重構造説が妥当だと主張するBiBiさんのTweetを示します。 ただ、上の篠田氏の「二重構造説」ですが、「今の日本人の場合は9割方は弥生時代以降に大陸からやってきた人たちの遺伝子」なら、常識的には「二重構造」とは言わないと思います。
BiBiさんも書いているように、「Y染色体における現代日本人のうち本土人の縄文人由来遺伝子は35%」ですから、篠田氏の10%とは3倍以上も違うのです…。 BiBiさんに言われて気が付いたのですが、「新版日本人になった祖先たち DNAから解明するその多元的構造」(2019年)にある篠田氏のY染色体説明は、見事に間違っていました。

新版 日本人になった祖先たち―DNAが解明する多元的構造 (NHKブックス No.1255)

新版 日本人になった祖先たち―DNAが解明する多元的構造 (NHKブックス No.1255)

  • 作者: 篠田 謙一
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2019/03/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

そのためなのか?その後の『人類の起源-古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」』(2022年)では、なぜかこの説明は「省略」されています。
人類の起源-古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」 (中公新書, 2683)

人類の起源-古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」 (中公新書, 2683)

  • 作者: 篠田 謙一
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2022/02/21
  • メディア: 新書

結局、現代日本人のDNAについては、まだまた謎が多いということなのでしょうね。

以下は、篠田氏の主張の変遷の経緯となります。

次のように、「新版 日本人になった祖先たち」(2019年)には、現代日本人のY染色体は縄文人とは違うとあります。

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その根拠となる発表 礼文島船泊縄文人の核ゲノム解析(2016年)

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なぜこんな初歩的なミスをしたのかは謎ですが、ハプログループの名称が頻繁に変わっているため、何か勘違いをしたのかもしれません。

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Wikipediaにもあるように、現代日本人の3割程度が持っている、Y染色体ハプログループD1a2a系統は縄文系である、ということになります。
下にあるように、北海道・礼文島の縄文人人骨である船泊5号のY染色体はD1a2a系統となります。

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