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国立歴史民俗博物館研究報告 2022 (第237集) 【追記あり】 [ゲノム解析で古代史]

国立歴史民俗博物館研究報告書 2022(第237集)を入手しました。
(一般には販売せず、ミュージアムショップのみの取り扱い)

rekihaku237.JPG

この報告書には、次の論文が収録されています。

藤尾慎一郎・篠田謙一・坂本稔・瀧上舞
考古学データとDNA分析からみた弥生人の成立と展開
(2021年11月26日受付、2022年5月23日審査終了)

実は、この論文には、韓国加徳島獐項遺跡から見つかった人骨のゲノム解析の詳しい結果が書かれているのです。やった!

rekihaku237p69.png

ちなみに、私の以前の2つの記事

6300年前の朝鮮半島に「縄文人」が住んでいた!?【追記あり】
6300年前の朝鮮半島に「縄文人」が住んでいた!?【訂正】

では、肝心の結果が書かれてないので苦労しました[もうやだ~(悲しい顔)]
自分のための備忘録として、ポイントだけ書き留めておくことにします。

篠田謙一氏らは、4体の人骨の調査を行い、うち2号と8号のDNAの解析に成功しました。結果は次のとおりです。

○ミトコンドリアハプログループ D4系統
→それぞれD4b1とD4aの祖型(東アジア集団で普遍的)

○Y染色体ハプログループ 不明(おそらく2体とも女性)

○核ゲノム解析 現代日本人や弥生人とほぼ同じ(以前の2つの記事でも既出)

○年代 約6300年前(出土人骨2体を炭素14法で分析した結果による)
→ただし、韓国の発掘報告書(2014年)に書いてある、人骨に伴った炭を炭素14法で分析した結果とは1700年違う。
(韓国の発掘報告書では8000年前らしいので、8000年-6300年=1700年という意味か?)

○人骨の人類学的調査の結果(山田康弘氏による) 縄文人とは違う
→長頭傾向、直線的ではない眉上隆起、頭部形態、大腿骨に柱状構造が見られない

○墓壙(墓穴) 弥生中期前半の九州北部の甕棺墓に見られるような列状配置

○黒曜石 遺跡からは、佐賀県の黒曜石も発見

○食性分析(瀧上氏) 海洋資源に大きく依存した生活[稲作はあまりない?]
→2号の炭素同位体比が47%台、8号が74%台。弥生時代の甕棺に葬られている炭素同位体比である20%台に比べてかなり重いため、海洋資源に大きく依存した生活[稲作はあまりない]。
(「炭素同位体比」の意味が不明。↓「炭素・窒素同位体比」なのでは?)

C14.JPG
出所 国立歴史民俗博物館研究報告書(第219集)

実データ→放射性炭素で海水大循環を調べる

見れば分かるとおり、炭素14法で分析した年代を無視すれば、人骨、DNA、墓壙は九州北部の弥生人そっくりとなります。
ただ、常識的に考えると、炭素14法で測定した6300年前という値は、どうみても2000年前にはなりそうもありません…。[最大限繰り下げても1000年程度]

炭素14の半減期は5730年です。いくら海産物を食べていたとしても、炭素14の摂取が半分になるとは考えにくいので。

参考1→箸墓古墳の実年代:歴博の炭素14年代測定による240~260年は根拠の間違いが明らかに

参考2→昌原三東洞甕棺墓(日本では弥生時代)

さて、この加徳島獐項遺跡に一番近い甕棺の遺跡は、「昌原三東洞甕棺墓」です。こちらは、原三国時代ということなので、日本では弥生時代となります。
ということなので、炭素14法の「6300年前」という結果がミスという可能性が高いとしか考えられません…。

kamekan.JPG
出所 弥生時代の鉄剣・鉄刀について

fuzan.JPG
出所 Google Map

閑話休題。

さて、この論文「考古学データとDNA分析からみた弥生人の成立と展開」ですが、はっきり言って論理が破綻しています。

いままでに書いたように、朝鮮半島古代人骨(渡来人)の核ゲノム解析の結果は、そのほとんどが「弥生人そっくり」です。
渡来人が縄文人と混血すると、主成分分析の結果はその中間にならないとおかしい。

しかし、実データによれば、渡来人と我々現代日本人(弥生人)のDNAはほぼ同じです。
これを論理的に考えると、渡来人が縄文人を駆逐して、現代日本人や弥生人になったはずですから、「二重構造説」は完全に否定されないとおかしい。

「二重構造説」への疑問

ところが、現実には逆に、現代日本人のY染色体やミトコンドリアのハプログループは、その多くが縄文人由来とされます。

結局、渡来人を前提として考えると、どうやっても実データと矛盾してしまうのです。

まったく逆に、縄文・弥生人が対馬海峡を渡って朝鮮半島に移住したとすると、ほとんどすべてが事実と整合的です。

○朝鮮半島南部から出土する古代人のDNAは、縄文・弥生人とほぼ同じ。
○朝鮮半島南部の前方後円墳は、日本より時期的に後
○朝鮮半島南部の水田稲作の開始時期は、日本より少し遅れる

などなど…。

余談ですが、Wikipediaの朝鮮民族によると、韓国人(朝鮮民族)のHLAを系統発生的に分析した結果、日本人と山東省の漢民族に最も密接な関連があったとのこと。
Anthropological analysis of Koreans using HLA class II diversity among East Asians

土井ヶ浜遺跡(出土した人(骨)は山東省から渡来)でわかるとおり、このルートは縄文時代から使われていたはずです。

HLAは感染症と密接に関係しているので、山東省から(水田稲作で)結核などの感染症が持ち込まれたことと関連しているのではないでしょうか…。

それから、朝鮮半島古代人のDNAですが、Y染色体ではO2が最大グループなので、箕子朝鮮、楽浪郡、帯方郡から中原の漢人のハプログループO2が流入したとすると、ほぼすべてのデータに辻褄が合ってきます。
なお、既出の記事のように、ミトコンドリアのハプログループは、中国大陸より日本に似ているので、男性は主に中国大陸から、女性は縄文・弥生人が多いと考えられます。
ただし、白村江の敗戦後、縄文系のY染色体ハプログループ(D1a2)は排除されたはずです。

しかし、なぜ専門家は「二重構造説」や「渡来人」が実データをまったく説明できないのに、これだけこだわるのでしょうか?

さっぱりわかりません。

【追記】

歴博のメンバーが、↑のような単純なことを理解できないはずはありません。
半島南部古代人のゲノム解析の結果は、ほとんどすべて一致しています。
考えるまでもなく、「二重構造説」は(少なくとも理論的には)完全に破綻していることは明らかです。

この論文は2021年11月26日受付だから、既に2年近くが経過していますが、その後の状況に変化は見られません。「血液型と性格」と同じで、もはやのメンツの問題なのかな?

ちなみに、血液型については、心理学者は個人的に信じている人も多いようですが、商売上「公式」には信じていないふりをしないといけません(苦笑)。少なくとも現役のときには…。

長谷川さんのように、もはや現役じゃなければ本音を言ってもいいんでしょうかね。

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