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牧田寛氏の論考と現実との大きなギャップ《ダムとトリチウム水》 [北海道大停電]

前回の続きです。

またまた、牧田寛氏が書いたハーバービジネスオンラインの記事で、このブログのアクセスが増えてきたようです。
内容があまりにも…なので、まともに反論しようという気はないのですが、私自身の備忘録としてさらっと勘違いを指摘しておきます。

さて、現在の最新記事は、台風19号でにわかに注目を浴びた治水問題のようです。

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2019.10.16 被害収まらぬ中飛び交う「ダム翼賛論」が間違いである理由
2019.10.17 八ッ場ダム、スーパー堤防……。幼稚な翼賛デマは防災・治水を軽視する愚論

実は、これらの記事に初歩的な間違いがあることは、Wikipediaで簡単にチェックできます。[わーい(嬉しい顔)]

まずは、最初の記事ですが、

ダム湖が満水になり、流入水量の減少も見込めない場合、ダムは緊急放流=ただし書き操作をはじめます。ただし書き操作では、流入量と放流量が等しくなるように放流しますので、簡単に言えば、ただし書き操作に入った時点でダムは存在しない状態となると考えれば良いです*。
(中略)
ダムは、設計をこえる洪水には対処できず、治水機能を短時間で失います。結果として下流には急激な大洪水が押し寄せて町も何もかも沈み人が死にますが、それは仕方ないのです。ダムとはそういったものです。

とあります。
この大して長くもない文章の中には、少なくとも2つの間違いがあります。

では、Wikipediaで「ただし書き操作」を調べてみることにしましょう。すると、なぜか「特例操作」という項目に転送されます。
その理由は、

ただし書き操作(ただしがきそうさ)と呼ばれていたが、2011年(平成23年)に国の通達により呼称が変更されており、従来のただし書き操作(異常洪水時防災操作・特別防災操作)に加え、河川環境の維持のための放流(いわゆる「フラッシュ放流」)を併せて「特例操作」と称することとなった[1]。

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[1]ダム操作に関する用語等の見直しについて(改訂)- 平成23年4月1日付国河流第4号 国土交通省河川局河川環境課流水管理室長発通知

ということですから、「ただし書き操作」は現在では「特例操作」と呼ばれているのです。
つまり、牧田氏の知識は10年近く前のものということになります。
ダムの技術が日進月歩なのに、「専門家」が10年前の知識しかないというのは問題ではないでしょうか?

また、「ただし書き操作(ママ)に入った時点でダムは存在しない状態となる」ともありますが、Wikipediaの「特例操作」にはこうあります。

この操作[特例操作]は、ダムの放流によって下流の洪水を増幅させるものではない(ダム建設反対派により「ダムの建設により洪水が増幅される」との主張がなされることがあるが、上記どおりの運用がなされる限りこれは誤解であるといえる)
(中略)
ダムが無い時と異なり、洪水の来襲の予測を立てられ、来襲までの時間が稼げるので、その間に河川管理者は下流住民に対して迅速な避難誘導、逆流による氾濫を防ぐために樋門を閉じるなどの仕事をすることができる。

特に、「洪水の来襲の予測を立てられ、来襲までの時間が稼げる」は非常に重要な点で、ちょっとでも防災に関心がある人なら、ほんの少しでも「時間が稼げる」ことがいかに貴重であるかは言うまでもないでしょう。
しかし、牧田氏の記事には、肝心のこの点が「治水機能を短時間で失います」とあるだけで、ほとんど触れられていないのです。

とりあえずこれだけにしますが、牧田氏の記事の内容があまりにも…なので、これ以上読み進める気にはなりませんでした。[あせあせ(飛び散る汗)]

また、10月17日21時現在のハーバービジネスオンラインのトップページには、1年ほど前に牧田氏が執筆した記事、

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2018.09.04 東京電力「トリチウム水海洋放出問題」は何がまずいのか? その論点を整理する

が掲載されています。

ポイントは、「トリチウム水」を放出するのに、実際には30~40年かかるはずで、国と東電は7年と言っているのは辻褄が合わないというものです。

2年後にはALPS処理水は130万トン、トリチウムの全放射能量は1.3PBq(ペタ=千兆)と見積もられます。
福島第一原子力発電所は、事故前にはトリチウムを年間で2TBq(テラ=1兆)放出していましたので、通常運転時の500年分のトリチウムがタンクの中に存在することになります。現在も事実上の目安とされている福島第一の事故前のトリチウム放出管理目標値は、22TBqでしたので、この管理目標を遵守すると単純計算で約60年、実際にはトリチウムの半減期が約12年ですので、2020年以降の増加量も勘案して環境放出には約25~30年かかることになります。ただし、地下水などの経路からのトリチウム放出の分を加えなければいけませんので、実際には30~40年かかることになります。
国と東電は、7年間で海洋放出を完了するつもりですので、これもつじつまが合いません。

では、この内容に真っ向から対抗するアゴラの記事を見てみましょう。

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2019年09月09日
福島第一のトリチウム水にイチャモンをつける韓国は、その6倍以上のトリチウムを日本海に放出(改訂)
河田東海夫
元原子力発電環境整備機構(NUMO)理事

韓国は月城(ウォルソン)原子力発電所で4基のCANDU炉(重水炉)を運転していいるが(ただし1号機は昨年退役)、この型式の炉は軽水炉に比べてトリチウム放出量が一桁大きい。
月城原子力発電所からのトリチウム年間放出は、トリチウム回収設備の導入や一部原子炉の停止などで2010年以降半減しているが、2009年までは400テラベクレル[400兆ベクレル=400TBq]を超えていた。4基体制に入った1999年10月以降だけで見ても、これまでに累積で6,000テラベクレル[6,000兆ベクレル=6,000TBq=6PBq]を超えるトリチウムを放出してきた。
福島第一原発に貯留されている現在のトリチウム総量は1000テラベクレル[1,000兆ベクレル=1,000TBq=1PBq]なので、月城原子力発電所の累積放出量はその約6倍にあたる(注)。しかもその放出先は日本海である。

単純計算だと、韓国の月城(ウォルソン)原子力発電所が過去に日本海に排出した3年分のトリチウムの量は、福島第一原発のタンクにあるトリチウムの総量を上回ってしまうのです!
このことは周知の事実です。

また、このアゴラの記事には、その影響についてこうあります。

月城原子力発電所からのトリチウム放出の影響評価のデータが手元にないので、CANDU炉の本家であるカナダの例を借りると、オンタリオ州にあるブルース原子力発電所では年間600~700テラベクレルのトリチウム[年間600~700兆ベクレル=福島第一原発タンクにあるトリチウムの総量1,000兆ベクレルの約半分]を放出している。
カナダ原子力規制委員会の報告によれば、それによる近隣住民の年間被ばくは0.0015ミリシーベルト程度に過ぎない。日本人の自然界からの年間被ばくの2.1ミリシーベルトと比べ、まったく問題にならないレベルであり、健康影響など、心配するほうが損をする。

牧田氏は本当に大丈夫なのでしょうか?
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