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安藤寿康さん 能力はどのように遺伝するのか【追記あり】 [新刊情報]


能力はどのように遺伝するのか 「生まれつき」と「努力」のあいだ (ブルーバックス)

能力はどのように遺伝するのか 「生まれつき」と「努力」のあいだ (ブルーバックス)

  • 作者: 安藤 寿康
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2023/06/22
  • メディア: 新書

この本は、「血液型と性格」に極めて否定的です。

安藤寿康さんの本は随分読んだのですが、血液型の話は読んだ記憶はなかったので、非常に驚きました。

血液型のA型とB型の違いは、19番染色体上の糖転移酵素遺伝子の中の何カ所からの塩基の違いである。それによって性格が決まるというのは迷信に近く、ほとんどの実証実験で検証されていないが、血液型もさまざまな神経伝達物質と同様に、性格の差を生む遺伝子多型の一つである可能性はゼロではない[出典3]。

この出典3は次のとおりです。

Pecujlija, Mladen ; Misic-Pavkov, Gordana & Popovic, Maja (2014).
Personality and Blood Types Revisited: Case of Morality. Neuroethics 8 (2):171-176.
https://doi.org/10.1007/s12152-014-9220-5

正直、この2014年の論文は初めて知ったので、興味津々で調べてみました。

結論から言うと、相当に根拠が薄弱と言うしかありません[たらーっ(汗)]

まず、このNeuroethicsというジャーナルのインパクトファクターは1.427(大きい方が評価が高い)で、はっきり言って大したことはありません。安藤さんが、なぜわざわざ否定の根拠としたのか…いささか疑問です。

neuro.PNG

なぜなら、肯定の根拠の定番は、土嶺さんらの2015年のPLOS ONEの論文ですが、こちらのインパクトファクターは3.752で、1.427の倍以上はあるので。しかも、発表年も2015年だから新しいのです。普通の人なら、どう考えたってPLOS ONEの方を信用するでしょう。

Shoko Tsuchimine,Junji Saruwatari,Ayako Kaneda,Norio Yasui-Furukori (2015)
ABO Blood Type and Personality Traits in Healthy Japanese Subjects
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0126983

plos.PNG

それだけではありません。安藤さんの紹介した論文のサンプルサイズは、「たった240人」ですが、土嶺さんらの論文は「1,472人」と、何倍も多いのです。

常識に考えても、たった240人のサンプルでは血液型による差が出る可能性は少ないですし(実際に検定力を計算しても差が出る可能性は低いです)、だからPLOS ONEより相当格下のジャーナルにしか出せなかったのでしょう。

否定の根拠がそれしかないのに、「性格が決まるというのは迷信に近く、ほとんどの実証実験で検証されていない」は、意図的に書いたならウソつきですし、知らなかったなら専門家としての能力を疑われます。

また、最近のPNASの論文ではサンプルは100万人以上ですし、こちらのインパクトファクターは驚異の12.779です。もっとも、さすがにNatureやCellの40とかには負けますが…。

Yao Hou, Ke Tang, Jingyuan Wang and Hanzhe Zhang (2022)
Assortative mating on blood type: Evidence from one million Chinese pregnancies
https://doi.org/10.1073/pnas.2209643119

pnas.PNG

なので、はっきり言って、安藤さんが紹介した論文は、ほとんど何の否定の根拠にもなってないのです…。

いくらなんでも、安藤さんがそこまで"頭が悪い"とも思えないので、ちょっと考えにくいのですが、意図的にウソを付いて否定しているのかもしれません。

逆に、こんな相当いい加減な根拠しか出せないぐらい、否定側は苦しい(追い詰められている?)ということになります。誰だって、↑に書いたぐらいは簡単に分かりますから…。

正直、ちょっと意外ですね。何かウラがあるのかな?

【追記】

念のため、この2つの論文ですが、安藤さんが紹介した否定的な論文は引用された回数が2回なのに対し、土嶺さんらの論文は引用された回数は58回で「桁違いに多い」のです。

hikaku.png

また、アクセス回数も、安藤さんが紹介した論文は617回ですが、

springer.PNG

土嶺さんらの論文は21,303回と、これまた「桁違いに多い」ので、常識的には同じレベルで比較するようなものとは思えません。

plosone.PNG

もちろん、だから土嶺さんらの論文が絶対に正しいと言うつもりはありませんが、「性格が決まるというのは迷信に近く、ほとんどの実証実験で検証されていない」と言うのは、少々きつい言い方になりますが、ウソツキでなければ「素人同然」の言説というしかありません。

もう一度考えたのですが、他のもっと有名な否定派論文は、曲がりなりにも差が出ちゃってる(有意差がないとか、予想された方向でないとか)のがほとんどなので、あえて全く差が出てないマイナーなものを選んだのかもしれません。また、精神疾患との関連を示唆している「まとも」な論文は数多くあります。

知っていないはずはないので、それなら立派な「確信犯」ということになりますね。可能性としてはこちらの方が高そうです。

以上は相当テクニカルな話なので、編集者はチェックできなかったとは思いますが、それにしても相当杜撰な内容であることは確かです。他の部分は大丈夫なんでしょうかね?

話が脱線しますが、血液型によって病気のかかりやすさが大きく違うことが分かってきています。

「血液型のA型とB型の違いは、19番染色体上の糖転移酵素遺伝子の中の何カ所からの塩基の違いである。それによって性格が決まるというのは迷信に近く」というなら、血液型によって病気のかかりやすさが大きく違うのも「迷信」ではないとおかしいはずです。

しかし、実際には「事実」なのだから、血液型が「性格」に多少の影響を与えても不思議ではないでしょう。

事実、自己家畜化に関係するとされる遺伝子、BAZ1Bは数百個の遺伝子に影響を与えるとされています。

ヒトは〈家畜化〉して進化した―私たちはなぜ寛容で残酷な生き物になったのか

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  • 出版社/メーカー: 白揚社
  • 発売日: 2022/06/03
  • メディア: 単行本

なんだかなぁ。
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