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「科学的議論」としてのトリチウム水と北海道大停電《まとめ3》【追記・訂正あり】 [北海道大停電]

まさか、その3を書くことになるとは思っていませんでした。

さて、その2を書いた後に、Twitter上でNPwrAGWさんと「バックフィット」の議論になりました。
バックフィットというのは、法律を過去に遡って適用するという、法治国家では非常に例外的な運用のことです。
book_law.png
わかりやすくするために、例を挙げて説明しましょう。
たとえば、家を新築するときは、必ず建築基準法を守らないといけません。ただし、普通は建てる時点の法律を守ればいいので、過去に遡って基準を適用するということはしません。
まぁ、これが普通の運用です。仮に、過去に遡ってとなると、法律が変わるたびに自宅から追い出されてしまうので、まずそんなことはしません。[たらーっ(汗)]

ただし、原発については、一定の条件をつけて新基準による「バックフィット」が認められています。
まぁ、福島第一原発の事故を考えると当然という気もしますが…。

新設した原発なら、スタート時からバックフィットである「新適合基準」を守る必要があります。
では、既存の原発はどうなのでしょうか?
私はなんとなく、定期検査で原発を止めている期間を利用して「新適合基準」をクリアするように設備の改修や工事をして、OKになってから再稼働するのものだと思っていました。
ところが、さきほど池田信夫さんとNPwrAGWさんから全く正反対の意見をいただきましたので、ここに紹介させていただきます。
(私は池田信夫さんのブログの愛読者なので、非常に恐縮しました)

[ひよこ]池田信夫さん
定期検査と安全審査(新基準適合性検査)は別です。バックフィットは後者に含まれる。

[ひよこ]NPwrAGWさん
相変わらず勘違いを垂れ流す池田信夫氏。
・原発の再稼働に関する政府答弁書
 http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51889555.html
逆さま。定検が終わらないから運転できないのだよ。→「これは運転と並行して行うので、定期検査が終われば運転できる」

いったいどちらが正しいのでしょう?

(2018.9.23 9:40追記 制度上「バックフィット」は「定期検査」には含まれなというのが最も素直な解釈のようです)

答えは原子炉等規制法(核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律)に書いてありますが、以前とは制度が大幅に変わったので関係部分に目を通して理解するのが大変でした。

ここでは、東北電力女川原発のサイトがわかりやすいので、説明を拝借します。

TOHOKUEP.JPG

原子力発電所では、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下、「原子炉等規制法」という。)に基づき、約1年に1回原子炉を止めて施設定期検査(以下、「定期検査」という。)を行います。
定期検査は、発電所の設備を健全な状態に維持し、トラブルの未然防止や発電所の安全運転を図ることを目的として行うものです。
あわせて、定期事業者検査※1を実施するとともに、定期安全管理審査※2を受審いたします。
現在我が国の原子力発電所の定期検査期間は、標準的には約3ヶ月程度となっています。

※1 改正原子炉等規制法(平成24年9月19日施行)により、従来、国が実施してきた定期検査および電気事業者が実施してきた自主点検を合せて、定期事業者検査として位置付け、検査結果を記録・保存することなどが新たに義務付けられている。定期事業者検査の一部について原子力規制委員会による立会や記録確認が実施される。
※2 定期事業者検査に関して事業者の組織、体制、検査方法などについて原子力規制委員会が審査・評定する制度。

トップページ > 原子力・環境・エネルギー > 原子力情報 > 原子力発電所に関する情報 > 定期検査

普通は「定期検査」というと国の検査官が行う「施設定期検査」をイメージします。確かに、法律(第43条の3の15)を読んでみると、この検査ではバックフィットは不要です。
実際に検査項目を確認してみましたが、ほとんどは設備の検査で、バックフィットとは直接の関係はありません。
ただし、法律(第43条の3の16)にあるように「定期安全管理検査」では「新適合基準」を守る必要があります。

(2018.9.23 9:40 追記10:10訂正 原子炉等規制法第43条の3の16第1項に定める定期安全審査事業者の自主検査にはバックフィットは含まれませんが、原子炉等規制法第43条の3の16全体をいう定期安全査には含まれています。誤解していたので訂正します。)

「定期検査」に「定期安全管理検査」が含まれるかどうかという用語の定義の違いのようです。


参考までに、次は原子炉等規制法(核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律)の条文の抜粋です。

(発電用原子炉施設の維持)
第43条の3の14 発電用原子炉設置者は、発電用原子炉施設を原子力規制委員会規則で定める技術上の基準[バックフィット]に適合するように維持しなければならない。ただし、第43条の3の33第2項の[廃炉]認可を受けた発電用原子炉については、原子力規制委員会規則で定める場合を除き、この限りでない。
(施設定期検査)
第43条の3の15 特定重要発電用原子炉施設(発電用原子炉施設であつて核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上特に支障がないものとして原子力規制委員会規則で定めるもの以外のものをいう。以下この条において同じ。)については、当該特定重要発電用原子炉施設を設置する者は、原子力規制委員会規則で定めるところにより、原子力規制委員会規則で定める時期ごとに、原子力規制委員会が行う検査を受けなければならない。ただし、第43条の3の33第2項の[廃炉]認可を受けた場合その他の原子力規制委員会規則で定める場合は、この限りでない。
(定期安全管理査)
第43条の3の16 特定発電用原子炉施設(発電の用に供する原子炉、その原子炉を格納するための容器その他の発電用原子炉施設であつて原子力規制委員会規則で定めるものをいう。以下この条において同じ。)を設置する者は、原子力規制委員会規則で定めるところにより、定期に、当該特定発電用原子炉施設について事業者検査を行い、その結果を記録し、これを保存しなければならない。ただし、第43条の3の33第2項の[廃炉]認可を受けた発電用原子炉については、原子力規制委員会規則で定める場合を除き、この限りでない。
2 前項の査(以下この条及び第43条の3の24において「定期事業者査」という。)においては、その特定発電用原子炉施設が第43条の3の14の技術上の基準[バックフィット]に適合していることを確認しなければならない。
(3以降は省略)

(2018.9.23 9:10追記 10:10訂正)
議論が収束したと思ったら、2時間ほど前の9/23 6:34にNPwrAGWさんからこんなツイートがあったので驚きました。

NPwrAGW.JPG

元の私のTweetのタイムスタンプはこの記事を書く前です。
お恥ずかしながら、この時点では私の理解不足で「定期検査」、そして「定期安全管理査」「定期安全管理査」を誤解していました。
その後の経過は上に書いたとおりで、普通は「定期検査」というと、原子炉等規制法第43条の3の15にある「施設定期検査」を指すことが多いようです。
そこで、以上の経緯をこの記事(その3)にまとめて、NPwrAGWさんにも次のようにTweetしたので納得していただいたと思っていたのですが…。

NPwrAGW.2JPG.JPG

この問題に詳しいNPwrAGWさんが検査(審査)制度を誤解しているとも思えませんが、あるいは「定期検査」には法律第43条の3の16にある「定期安全管理査」が含まれると主張したいのでしょうか?

#定期安全管理査は、原発だけではなく他の電気設備でもやっているらしいです(後述)。
#それなら、通常の感覚では「原発」の定期検査に含まれないと思うんですが…。

ただ、これも非常に考えにくいのです。
なぜなら、NPwrAGWさんが「定期検査」は「施設定期査」だと主張しているようだからです。
次のTweetには、北海道電力の「定期検査」とあります。

NPwrAGW.3JPG.JPG

「原子力発電所は、約1年間運転した後に発電を停止して機器を分解点検し、国の検査を受けることが義務付けられています。」とありますが、この文章にあてはまるのは「施設定期検査」だけで「定期安全管理検査」は含まれないからです。

これのことは、原子炉等規制法だけではなく、原子力規制委員会のサイトでも確認できます。
次のとおり、「施設定期検査」には、期間は13-24月とありますから、確かに「約1年間」です。

NPwrAGW.5JPG.JPG

対して、「定期安全管理査」には、特に期間の規定はありません。

NPwrAGW.6JPG.JPG

つまり、素直に解釈すると、「定期検査」は「施設定期検査」だけを指し「定期安全管理査」は含まれないことになります。

さらに奇妙なのは、「定期安全管理査」の内容です。
原子力規制委員会のサイトによると、

《審査対象》
定期事業者検査の実施体制
《審査事項》
実施に係る組織、検査の方法、検査に係る工程管理、検査に協力する事業者の管理、検査の記録の管理、検査に係る教育訓練
《審査基準》
社団法人日本電気協会電気技術規程
(JEAC4111-2009,JEAC4209-2007)等。審査基準に社団法人日本電気協会技術規定(JEAC4111-2009, JEAC4209-2007等)

とあるので、「バックフィット」らしきものは含まれていませんし、メインの審査基準が「日本電気協会技術規定」なので、原子力とは関係ない電気設備の検査ということなります。
また、審査基準の「-2007」と「-2009」は制定年なので、そもそも2016年に内容が決まったバックフィットが含まれるはずもありません。[たらーっ(汗)]


このように、制度上は「施設定期検査」はも「定期安全管理査」も「バックフィット」を想定していないということですから、池田信夫氏の言うように、

定期検査と安全審査(新基準適合性検査)は別です。バックフィットは後者に含まれる。

というのが最も素直な解釈ということになります。

そこで、もう一度「バックフィット」を規定している原子炉等規制法第43条の3の16を読み直してみました。
なぜバックフィットの規定が第2項かというと、第1項は「定期安全管理審査」事業者の自主検査のことを記述しているので、そのままここには書けないからです。
そこで、第2項に改めてバックフィットを規定したことになります。
そのほかも含めて、第43条の3の16に「定期安全管理査」という名前を付けてしまったので、私が誤解してしまったことになります。[たらーっ(汗)]

繰り返しになりますが、池田信夫氏のいうように「定期検査と安全審査(新基準適合性検査)は別です。バックフィットは後者に含まれる。」というのが最も妥当な解釈ということでいいはずです。

これで一件落着だといいのですが。

(2018.9.23 12:30追記)
その後、NPwrAGWさんに「定期検査」の定義を確認したのですが、回答はありませんでした。
(2018.9.25 11:40追記)
池田信夫氏の「定期検査」は「施設定期検査」(これは一般的な定義)、 NPwrAGWさんの「定期検査」は「定期事業者検査」(これの定義はあまり一般的ではないようですが、実際には「施設定期検査」と同時に行うことが多い)とのことのようです。


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