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「科学的議論」としてのトリチウム水と北海道大停電《まとめ1》 [北海道大停電]

この記事は、過去の《1》《2》《3》のとりあえずのまとめで、自分自身の備忘録として書いておくものです。
少々読みにくいのはご容赦を。

ハーバー・ビジネス・オンラインに掲載され、100万PVという大反響を巻き起こしたとされる、北海道大停電についての牧田寛氏の論考は次のとおりです。

東京電力「トリチウム水海洋放出問題」は何がまずいのか? その論点を整理する 2018.09.04
北海道胆振東部地震「泊原発が動いていれば停電はなかった」論はなぜ「完全に間違い」なのか 2018.09.10
私設原発応援団たちによる、間違いだらけの「泊原発動いてれば」反論を斬る 2018.09.20 

しかし、大変失礼ながら、私には牧田氏が現実のデータに基づいて計算しているとは思えません。
また、法解釈にも少々疑問が残ります。

さて、最初の論点は、現在停止している「泊原発」が正常に稼働していたとした場合、今回のようなブラックアウトが起きたかどうかです。
もちろん、反原発派は「起きた」、原発推進派は「起きない」という意見が主流ですが、残念なことに具体的な数字でシミュレーションをしたケースが見当たりませんでした。
そこで、本当にざっくりと数字を計算してみることにします。
#誰かもっと正確な計算をしてもらえないでしょうか…ね[たらーっ(汗)]

これに関して、昨日9月20日の朝日新聞のサイトに、

北電の強制停電、3回目は不十分 ブラックアウト誘発か  2018.9.20

という地震直後の状況に関する記事が掲載されました。
下に示す記事中のグラフはなかなか意味深です。

makita-asahi.JPG

どうやら、全道ブラックアウトは地震直後に一気に発生したのではないようです。


9月6日午前3時8分に震度7の北海道胆振東部地震が発生し、苫東厚真火発3基のうち2号機(60万kW)と4号機(70万kW)が地震直後に自動停止し、100万kW以上の発電能力が一気に失われてしまいました。
このときは、本州から60万kWの融通や他の火発の増力などで対応し、なんとか危機を乗り切りました。
しかし、不幸なことに、苫東厚真で唯一無傷で残っていた1号機(35万kW)もまもなくダウンし、遂に北電の対応能力を超えて全道ブラックアウトに陥りました。
逆に、この1号機さえダウンしなければ、一部地域のブラックアウトはあったとしても、全道にまでは拡大しなかったらしいのです。

さて、泊原発は3基あり、発電能力は合計207万kWで、稼働率は実績ベースでは70~80%です。
わざわざシミュレーションしなくとも、泊原発の207万kWさえ稼働していれば、苫東厚真1号機35万kWぐらいは余裕しゃくしゃくでカバーできたのではないでしょうか。

というのは、原発は「ベースロード」電源といって常時フル稼働しているからです。たまたま定期検査で泊原発3基のうち1基が停止していたとしても、少なくとも100万kW以上は発電しているはずですし、2010~2011年度の実績では平均163万kWとなっています。
それなら、深夜3時に必要な約300万kWのうち100万kW以上は泊原発が供給していたはずで、苫東厚真3基計165万kWをフル稼働させる必要は相当低くなります。

これを裏付けるのが、下のNPwrAGWさん提示のグラフ(左図)で、泊原発が稼働していた2010年8月31日午前3時だと、泊原発はほぼフルパワーの約200万kWで稼働中でした。
これに対して、苫東厚真は能力の半分以下の70万kW程度です(Wikipediaによると苫東厚真は他の石炭火発と違って海外炭)。

DnmPfnnUUAAxSJr.jpg

繰り返しになりますが、午前3時に苫東厚真で瞬時に100万kW以上の発電能力が失われても、全道ブラックアウトは発生しなかったはずです。
仮に泊原発が稼働していたとすると、そもそも苫東厚真では70万kW程度しか発電していなかったはずで、全道ブラックアウトにはなりようがありません。
しかし、現在は泊原発を停止させてしまったため、北電の発電能力が大幅に低下し、苫東厚真は常時フル稼働に近い状態(同グラフ右図)になってしまいました。
これが全道ブラックアウトの遠因であることは何人かの専門家も指摘しています。

これ以上詳しい状況が不明なので確定的なことは言えませんが、現実のデータを素直に分析すると、泊原発が稼働していれば全道ブラックアウトが避けられた可能性は相当高いと思います。
なお、今回の地震では泊原発の震度は2とのことなので、発電が停止する可能性は極めて低いとのことです。
10月中旬に経済産業省が報告書を発表するそうなので、どういう内容になるのかが注目されます。

以下は、この朝日新聞記事の抜粋です。

経済産業省と国の電力広域的運営推進機関(広域機関)が19日、地震直後の[9月]6日午前3時8分からブラックアウト(同25分)に至るまでの17分間の道内の電力需給バランスについて、北電などから得たデータに基づき、概要を公表した。
地震直後、道内最大の火力で震源に近い苫東厚真(とまとうあつま)発電所(厚真町)の2号機、4号機が地震の揺れで自動停止した。これで地震前の電力供給約310万キロワットの4割弱が一気に失われた。
(中略)
北電はすぐに1度目の強制停電を発動。本州からの電力融通(最大約60万キロワット)も受けて3時9分にいったん、需給バランスが回復した。
ただ、それは2分間ほどしかもたなかった。「夜中の地震に驚いて電灯やテレビをつける人が多く、地震から数分で需要が急増した」(経産省担当者)とみられる。同11分からは、再び需要が供給力を上回り、周波数が低下。ギャップを埋めるため、苫東厚真以外の火力発電所が出力を上げ、同18分過ぎには再び、需給バランスはおおむね回復した。
ところが、同21分から苫東厚真で唯一発電を続けていた1号機の出力が低下。「ボイラーの配管が損傷し、蒸気が漏れたため」(同)とみられる。
これを受け、北電は同22分に2度目の強制停電を実施。需給バランスはやや改善したが、同25分[9月6日午前3時25分]には苫東厚真1号機が停止。北電は3度目の強制停電に踏み切ったものの、強制的に停電できる地域を「すべて使い切った」(広域機関)とみられ、需要を十分に減らせなかった。ほかの火力発電所や水力発電所もすべて止まり、北海道ほぼ全域のブラックアウトに陥った。

それにしても、《2》で数値が合わないことといい、牧田氏は大丈夫なんでしょうか?

余談ですが、牧田氏の9月10日付の記事北海道胆振東部地震「泊原発が動いていれば停電はなかった」論はなぜ「完全に間違い」なのかには、北海道電力は負荷追従能力が弱いとして、直感的にわかる「ムカデ競走」のたとえが出てきます。

電力需要の少ない夜間に発電容量の大きな発電所が急に脱落すると出力調整余力がなく連鎖的に送電網が破綻してしまうという弱点があります。
(中略)
原子力発電は出力調整をしません。石炭火力も出力調整を苦手とします。しかもそれらは大出力です。結果、北海道電力は、数人の大人が交じった小学生のムカデ競走のようなもので大人が一人でも転ぶと全体が転ぶ弱点があります。

上の文章を素直に読むと、出力調整が苦手な苫東厚真石炭火発の1基でもダウンすると、全道ブラックアウトが起きるはずだということになります。しかし、朝日新聞記事に書かれている現実のデータでは、少なくとも苫東厚真発電所全3基のうち2基がダウン(地震時電力供給量の約4割)しても短期間なら持ちこたえ、全道ブラックアウトは起きなかったことになります。
となると、牧田氏のこの「ムカデ競走」の説明内容は適切とは言えないのではないでしょうか?

(2018.9.21 23:40追記)また「石炭火力も出力調整を苦手」とありますが、上に示したNPwrAGWさん提示のグラフ(左図)によると、泊原発が稼働していた2010年8月31日午前3時には、苫東厚真石炭火発は能力の半分以下の70万kW程度です(苫東厚真は海外炭)。毎日能力の半分以下からフルパワーを繰り返していても「出力調整が苦手」ということなのでしょうか? 常識的にはそう言えないと思うんですが…[たらーっ(汗)]

(2018.9.22 1:40追記)
NPwrAGWさんから、「地震はどの時間帯でも発生し得る」という反論をいただきました。しかし、泊原発が稼働していれば、石油火発の余力が昼間でも100万kW以上あるはずです(残念なことに、泊原発が停止している現状でははぼ「ゼロ」)。これに本州からの融通60万kWを足すと苫東厚真の全能力を上回ります。全道ブラックアウトは考えにくいと思うんですが…。


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