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「科学的議論」としてのトリチウム水と北海道大停電《3》【追記あり】 [北海道大停電]

性懲りもなく、前回の続きです。

この記事は血液型とは関係ないのですが、引き続きタイムリーな「科学的議論」の題材として、試験的に取り上げます。

9月20日のハーバー・ビジネス・オンラインに、再度牧田寛氏の北海道大停電に関する記事が掲載されました。

私設原発応援団たちによる、間違いだらけの「泊原発動いてれば」反論を斬る 2018.09.20 

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残念なことですが、どうも牧田氏の文章には間違いが目立つような気がします。[たらーっ(汗)]

まず、

泊発電所は、現在適合性審査がきわめて難航しており、今後1年は審査合格が出る可能性はありません。これは原子力規制委員会(NRA)と北海道電力の間の問題であって、他者が介入する余地はありません。

「泊発電所が動いていたら」という仮定は、適合性審査に合格してない、今後1年、場合によれば永久に審査合格の可能性がないと言う事実の前には、論理学の初歩問題として成立し得ません。

についてです。

牧田氏の言うような、原子力規制委員会による「適合性審査がOKにならないと再稼働できない」という法的根拠はなんでしょうか?

氏の記事ではわからないので、面倒とは思いつつ原子炉等規制法(核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律)を読んでみました。
どうやら、次の条文がベースになっているようです。

(施設の使用の停止等)
第43条の3の23 原子力規制委員会は、発電用原子炉施設の位置、構造若しくは設備が第43条の3の6第1項第4号の基準に適合していないと認めるとき、発電用原子炉施設が第43条の3の14の技術上の基準に適合していないと認めるとき、又は発電用原子炉施設の保全、発電用原子炉の運転若しくは核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物の運搬、貯蔵若しくは廃棄に関する措置が前条第1項の規定に基づく原子力規制委員会規則の規定に違反していると認めるときは、その発電用原子炉設置者に対し、当該発電用原子炉施設の使用の停止、改造、修理又は移転、発電用原子炉の運転の方法の指定その他保安のために必要な措置を命ずることができる。
2 原子力規制委員会は、防護措置が前条第2項の規定に基づく原子力規制委員会規則の規定に違反していると認めるときは、発電用原子炉設置者に対し、是正措置等を命ずることができる。

(2018.9.21 21:40追記)
念のため、原子力規制委員会設置法を読んで原子力規制委員会の所掌事務を調べてみました。これは第4条にあるのですが、既存原発も規制する「バックフィット」について明確には書いてありません。やはり、バックフィットの根拠は原子炉等規制法第43条の3の23しかないようです。

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参考までに、同法第43条の3の6第1項第4号による「基準」は次のとおりです。

(許可の基準)
第43条の3の6
4 発電用原子炉施設の位置、構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準に適合するものであること。

また、同法第43条の3の14による「技術上の基準」は次のとおりです。

(発電用原子炉施設の維持)
第43条の3の14 発電用原子炉設置者は、発電用原子炉施設を原子力規制委員会規則で定める技術上の基準に適合するように維持しなければならない。ただし、第43条の3の33第3項の認可を受けた発電用原子炉については、原子力規制委員会規則で定める場合を除き、この限りでない。

つまり、現在法的に再稼働ができないというなら、原子力規制委員会から原子炉等規制法第43条の3の23に基づく再稼働不可という「是正命令」が出ているはずです。
しかし、この牧田氏の文章には、それらしき文章は見つかりません。
というか、どこを探してもそんな話は聞かないので、現在の再稼働がNGということには法的根拠はないらしいのです。
にわかには信じられないので、本当なのかなぁ~っていう感じですね。

詳しくは次の池田信夫氏の記事を読んでみてください。

活断層と再稼動は無関係である
原子力規制委員会によるバックフィット規制の問題点(上)
原子力規制委員会によるバックフィット規制の問題点(中)
原子力規制委員会によるバックフィット規制の問題点(下)

仮定の話ですが、もし東日本大震災が発生せず、福島第一原発の事故がなかったとしたら、今でも泊原発は稼働していたはずです。
なぜ「泊原発が動いていたら」という仮定をしていけないのか、非常に理解に苦しみます。


これに関して、9月20日の朝日新聞のサイトに、

北電の強制停電、3回目は不十分 ブラックアウト誘発か
2018年9月20日08時32分

という記事が掲載されました。
下に示す記事中のグラフはなかなか意味深です。

makita-asahi.JPG

それによると、全道ブラックアウトは地震直後に一気に発生したのではないようです。
苫東厚真で最後まで頑張っていた石炭火発1号機(35万kW)さえダウンしなければ、一部のブラックアウトはあったとしても、全道にまで拡大しなかったらしいのです。

泊原発は1号機と2号機の発電能力はそれぞれ57万9千kWで、3号機は91万2千kWですから合計207万kWで、稼働率は70~80%です。

わざわざシミュレーションしなくとも、泊原発さえ稼働していれば、この石炭火発1号機35万kW分ぐらいは余裕しゃくしゃくでカバーできたでしょう。
というのは、原発は「ベースロード」電源といって常時フル稼働しているからです。たまたま定期検査で1基が停止していたとしても、少なくとも100万kW以上は発電しているはずですし、2010~2011年度の実績では163万kWとなっています。
それなら、深夜3時に必要な約300万kWのうち100万kW以上は泊原発が供給していたはずで、苫東厚真3基計165万kWをフル稼働させる必要は極めて低くなります。

苫東厚真1号機35万kW分がダウンしたのが全道ブラックアウトの原因だとすると、この能力分が稼働していなければ、そもそもブラックアウトになりようがありません。

詳しい状況が不明なので確定的なことは言えませんが、常識的に考えても、泊原発が稼働していれば、全道ブラックアウトは避けられた可能性は相当高いと思います。
なお、今回の地震では泊原発の震度は2とのことなので、停止する可能性は極めて低いとのことです。

以下は、この記事の抜粋です。

経済産業省と国の電力広域的運営推進機関(広域機関)が19日、地震直後の[9月]6日午前3時8分からブラックアウト(同25分)に至るまでの17分間の道内の電力需給バランスについて、北電などから得たデータに基づき、概要を公表した。
地震直後、道内最大の火力で震源に近い苫東厚真(とまとうあつま)発電所(厚真町)の2号機、4号機が地震の揺れで自動停止した。これで地震前の電力供給約310万キロワットの4割弱が一気に失われた。
(中略)
北電はすぐに1度目の強制停電を発動。本州からの電力融通(最大約60万キロワット)も受けて3時9分にいったん、需給バランスが回復した。
ただ、それは2分間ほどしかもたなかった。「夜中の地震に驚いて電灯やテレビをつける人が多く、地震から数分で需要が急増した」(経産省担当者)とみられる。同11分からは、再び需要が供給力を上回り、周波数が低下。ギャップを埋めるため、苫東厚真以外の火力発電所が出力を上げ、同18分過ぎには再び、需給バランスはおおむね回復した。
ところが、同21分から苫東厚真で唯一発電を続けていた1号機の出力が低下。「ボイラーの配管が損傷し、蒸気が漏れたため」(同)とみられる。
これを受け、北電は同22分に2度目の強制停電を実施。需給バランスはやや改善したが、同25分[9月6日午前3時25分]には苫東厚真1号機が停止。北電は3度目の強制停電に踏み切ったものの、強制的に停電できる地域を「すべて使い切った」(広域機関)とみられ、需要を十分に減らせなかった。ほかの火力発電所や水力発電所もすべて止まり、北海道ほぼ全域のブラックアウトに陥った。

それにしても、前回の数値が合わないことといい、牧田氏は大丈夫なんでしょうか?

(2018.9.21 6:30追記)
牧田氏の前回の記事(北海道胆振東部地震「泊原発が動いていれば停電はなかった」論はなぜ「完全に間違い」なのか 2018.09.10付)には、北海道電力は負荷追従能力が弱いとして、わかりやすい「ムカデ競走」のたとえが出てきます。

電力需要の少ない夜間に発電容量の大きな発電所が急に脱落すると出力調整余力がなく連鎖的に送電網が破綻してしまうという弱点があります。
(中略)
原子力発電は出力調整をしません。石炭火力も出力調整を苦手とします。しかもそれらは大出力です。結果、北海道電力は、数人の大人が交じった小学生のムカデ競走のようなもので大人が一人でも転ぶと全体が転ぶ弱点があります。

上の文章を素直に読むと、出力調整が苦手な苫東厚真石炭火発の1基でもダウンすると、全道ブラックアウトが起きるはずだということになります。しかし、朝日新聞記事に書かれている現実のデータでは、少なくとも苫東厚真発電所全3基のうち2基がダウン(地震時電力供給量の約4割)しても短期間なら持ちこたえ、全道ブラックアウトは起きなかったことになります。
となると、牧田氏のこの「ムカデ競走」の説明内容は妥当とは言えないのではないでしょうか?


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