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アイヌのY染色体のゲノム解析【追記あり】 [ゲノム解析で古代史]

アイヌのゲノム解析は、なぜかタブーのようです。
数少ないY染色体の解析が次の論文です。

Autosomal and Y-chromosomal STR markers reveal a close relationship between Hokkaido Ainu and Ryukyu islanders
KAE KOGANEBUCHI, TAKAFUMI KATSUMURA, SHIGEKI NAKAGOME, HAJIME ISHIDA, SHOJI KAWAMURA, HIROKI OOTA, THE ASIAN ARCHIVAL DNA REPOSITORY CONSORTIUM
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ase/120/3/120_120322/_article/-char/ja

解説はこちら。

アイヌ人と沖縄人のDNAを比べると・・・(Y染色体ハプログループDの研究)
http://www.jojikanehira.com/archives/15377873.html

Picture-242.png

見ての通り、Short Tandem Repeatのバリエーションはアイヌ人と沖縄人で大きく違います。沖縄人がアイヌ人に対してバリエーションの豊かさを見せています。沖縄人の調査人数に比べてアイヌ人の調査人数が少ないということもありますが、それを差し引いても、大きな差がありそうです。

なお、ミトコンドリアのゲノム解析の結果はこちら。

プレ・アイヌ期の人類集団を捉え直す:北海道先史時代人骨についての総合的研究
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17H03737/

参考です。
【2023.6.11追記】
コメント(2) 

朝鮮半島は8200年前から2万年前ぐらいまでほぼ無人だった【追記1-2あり】 [ゲノム解析で古代史]

驚いたことに、朝鮮半島は8200年前から2万年前ぐらいまでほぼ無人だった、という「韓国人」の論文が出てました。それも、放射性炭素の測定からです。

Chuntaek Seong, Jangsuk Kim [ソウル大学]
Moving in and moving out: Explaining final Pleistocene-Early Holocene hunter-gatherer population dynamics on the Korean Peninsula
https://doi.org/10.1016/j.jaa.2022.101407

確かに、この論文のグラフを見ると(多少の誤差はあるそうですが)そうなっています。

Therefore, we believe that the sharp decline of radiocarbon dates reflects a real and significant episode of depopulation on the Korean peninsula during this period (Fig. 2).

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そして、このことは従来の考古学的な知見(7000年前から1.2万年前までほぼ無人)ともほぼ一致します。
驚きました。


【2023.6.3 追記1】

この論文では、人口の増減は北部では半島南部とは反対とあります。

Highlights
•The population history of Korea during the final Pleistocene was reconstructed.
•The population increased during colder periods and decreased in warmer periods.
•The population fluctuation of Korea contrasts sharply with northern latitude areas.
•This pattern resulted from overall relocations of networks of hunter-gatherers.
•Social network relocations were driven by environmental changes.

つまり、従来の考古学的な知見で、朝鮮半島(南部…北部はデータなしか?)が7000年前から1.2万年前までほぼ無人となっていたのは、狩猟採集生活をしていた現地人が、温暖化に伴い北部に移動したからだ、ということになります。

実際に、日本の気温を調べてみると、確かに1万9千年ぐらい前から急激に温暖化が進んだことが分かります。「縄文海進」でわかるように、8200年前でもこの温暖化の状況は変わりません…。

01_hendou-768x326.jpg

以上のことから、先史時代の朝鮮半島では、

・最後の氷河期が1万9千年前に終わり、その後に急速に温暖化した
・狩猟採集生活をしていた現地人は、温暖化に伴い北に移動したたため、半島南部はほぼ無人になった
・7300年前の鬼界カルデラの大噴火により、半島南部に相当数の縄文人が移動した
・その後、半島南部の縄文人の人口が急増した

と考えると、事実と非常によく整合することになります[ひらめき]

ただし、この論文では人口急増は8200年前と、7300年前とされる鬼界カルデラの大噴火とは1000年近くの「ずれ」があります。説明には、年代の測定誤差は200年程度とあり、この200年のずれが「誤差」なのかは微妙なところです。

もっとも、喜界カルデラの大噴火は6300年前という説もあり、相当な誤差がありそうです。また、8200年前も7300年前も、2万年前の氷河期から比べると相当気温が高いことには変わりありません。

また、この時期の人口増は、特に南海岸と東海岸で顕著(the Korean Peninsula witnessed the emergence of pottery and a population boom around 8200 BP, especially along the eastern and southern coasts)ということですから、この人口増は縄文人によるものであることは、ほぼ間違いないでしょう。

残念ながら、発掘された土器の情報はありませんでした。縄文土器だったんでしょうか?

もっとも、実物の写真を見れば見るほど、韓国の櫛目文土器は(同時代の)縄文土器とそっくりです。もちろん、当時は日本から土器やその原料となる土を運ぶのは非現実的です。そこで、材料となる土を現地調達し、縄文土器とほぼ同じものを作ったと考えるのが自然でしょう。

スクリーンショット-2021-10-03-15.42.05.jpg

また、この論文には、

The important point is that the mainland peninsula, despite extensive archaeological research especially during the last three decades on river terraces, lowlands and uplands, and coasts and inlands, still does not have reliable archaeological remains for this period, sharply contrasting with neighboring areas such as Japan...
重要なのは、半島本土では、特に過去30年間に河岸段丘、低地と高地、海岸と内陸で大規模な考古学的調査が行われたにもかかわらず、この時代[8200年前から11000年前]の信頼できる考古学的遺物が存在せず、日本などの近隣地域と大きく対照的であることです

ともあり、従来の考古学的な知見(7000年前から1.2万年前までほぼ無人)を裏付けています。

と言った感じで、資料を調べれば調べるほど、従来の考古学的な知見である「7000年前から1.2万年前までほぼ無人」が正しいことが裏付けられる結果となりました[ひらめき]

【2023.6.3 追記2】

やはり、この論文を素直に読む限り、

・1万9千年前に氷河時代が終了し、急激に温暖化が進んだ
・このため、以前から住んでいた人々は、生活様式を保つため北に移動した
・結果として、半島南部は事実上無人になった
・その後、7300年前に喜界カルデラが大噴火し、縄文人が難を逃れて半島南部に移住した
・その裏付けとして、半島南部の遺跡からは、縄文土器と「うり二つの」櫛目文土器と、(日本由来と推測される※)黒曜石が幅広く出土していることが挙げられる

としか考えようがありません…。

以下は、この論文の該当部分の仮訳です。

The wide distribution of obsidian artifacts throughout the peninsula strongly suggests a “non-utilitarian” mobility and interaction network range (Whallon 2006) that maintained north–south ties. Multiple analyses indicate that obsidian artifacts from many archaeological sites of southern Korea were obtained from Mt. Baekdu, located on the present-day China-North Korea border, 500 to 800 km from the sites where they were discovered (Chang and Kim, 2019, Kim et al., 2007, Yi and Jwa, 2015).
半島全体に黒曜石の遺物が広範囲に分布していることは、南北関係を維持していた「非実用的な」移動と交流のネットワーク範囲を強く示唆している (Whallon 2006)。複数の分析により、韓国南部の多くの遺跡から出土した黒曜石の遺物※は、発見場所から500~800km離れた、現在の中国と北朝鮮の国境に位置する白頭山から入手されたことが示されています(Chang and Kim, 2019; Kim et al. 2007; Yi and Jwa, 2015)。

To be clear, we are not arguing that the southern Korean Peninsula was completely abandoned for 10 millennia; it is likely that the southern peninsula was out of hunter-gatherers’ regular mobility range, but may have been visited intermittently, which would have left few well-preserved material remains (Yellen 1977).
誤解のないように言っておくが、私たちは朝鮮半島南部が10000年間にわたって完全に放棄されていたと主張しているわけではない。おそらく半島南部は狩猟採集民の通常の移動範囲外だったが、断続的に訪れていた可能性があり、その場合は保存状態の良い資料遺物はほとんど残らなかったであろう(Yellen 1977)。

※ 黒曜石は白頭山からも産出されますが、成分分析をした結果によると、少なくとも半島南部では日本産の可能性が高いと思われます。しかし、参考文献の内容を書き換えてしまうとは、ちょっと信じられません[たらーっ(汗)]

○Yi and Jwa, 2015. On the provenance of prehistoric obsidian artifacts in South Korea
 https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1040618215007715
 It appears that the prehistoric artifacts from the middle to northern part of South Korea have a genetic relationship with obsidians from the Baekdusan area, whereas those of the southern part are related to Kyushu, Japan.
(韓国の中部から北部にかけての先史時代の遺物は、白頭山地域の黒曜石と遺伝的関係があり、南部の遺物は日本の九州と関係があるようだ。)

○Chang and Kim, 2019. Source Identification Analysis of Obsidian Unearthed from the Korean Peninsula
https://www.kci.go.kr/kciportal/ci/sereArticleSearch/ciSereArtiView.kci?sereArticleSearchBean.artiId=ART002477647
 2. PNK1 obsidian has a number of variations, according to the ratio of barium or strontium contained. Obsidian tools unearthed from the central and northeastern region of Korean Peninsula originated from Mt. Baekdusan (Paekdusan) throughout all periods. Obsidian tools from the Japanese Archipelago have only been identified in the southern part of the Korean Peninsula.
(2. PNK1黒曜石は、含まれるバリウムやストロンチウムの割合により、いくつかのバリエーションがある。朝鮮半島中部および東北地方から出土する黒曜石の道具は、どの時代を通じても白頭山に起源を持つ。日本列島の黒曜石の道具は、朝鮮半島の南部でのみ確認されている。)
 7. According to the analysis, Mt. Baekdusan obsidian was not present in the islands of the southern region of the Korean Peninsula.
(7. 分析結果によると、白頭山黒曜石は朝鮮半島南部の島々には存在しなかった。)

○小野昭
 資源環境の中の黒曜石方法上の展望
 https://www.meiji.ac.jp/cols/english/research/6t5h7p00000de6rx-att/ono.pdf
 白頭山の黒曜石原産地については産地を細分してPNK1,PNK2,PNK3を区分する(Popov,etal. 2005)が,良質なPNK1はアクセス可能な白頭山の中国側産地では発見されていない。そのため厳密に突きつめていくと「伝」白頭山として認識するしかない問題に逢着する。この問題は当面解決しない。白頭山の黒曜石が韓国内の旧石器時代遺跡で利用されたことをしめしたKim,etal.2007論文とは別に,Cho,etal.の論文(Cho, etal.2010)では同じ考古遺跡からの試料で白頭山は同定されていない。明らかに矛盾が生じている。

○白頭山の黒曜石、旧石器時代に大邱にまで(東亜日報 2018.1.18)
https://www.donga.com/jp/article/all/20170118/828233/1
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