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牧田寛氏の論考と現実との大きなギャップ《2》 [北海道大停電]

前回の続きです。

いろいろと調べてみたのですが、どうやら牧田氏の原発「専門家」としての知識はかなり疑わしいようです。
ここでは外部電源喪失時の「所内単独運転」を取り上げます。

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氏は、私設原発応援団たちによる、間違いだらけの「泊原発動いてれば」反論を斬る(2018.09.20)の中でこう書いています。

私は宇佐美氏が持ち出したと聞くまで、PWR発電所で所内単独運転が実施されていることを把握していませんでした。なぜなら、所内単独運転による運転継続は、原子炉を運用する電気事業者は強く実現したがってきたことですが、原子炉を不安定な過渡状態に置くことは多重防護の第一層を壊す行為であるため、多重防護の第一層を守ると言う原則から、逸脱運転である所内単独運転で運転継続するのではなく、まずは原子炉を停止すると言う共通認識があったからです。(参考文献:原子炉の暴走―SL‐1からチェルノブイリまで 石川迪夫 日刊工業新聞社 1996/04)


原子炉の暴走―SL‐1からチェルノブイリまで

原子炉の暴走―SL‐1からチェルノブイリまで

  • 作者: 石川 迪夫
  • 出版社/メーカー: 日刊工業新聞社
  • 発売日: 1996/04
  • メディア: 単行本


原子炉は、送電線への落雷により外部への送電が出来なくなると、直ちにタービントリップし、原子炉もトリップ(PWRの“方言”。BWRではスクラム。緊急停止のこと)します。この際、非常用DGにより電源を供給しますが、原子炉は自動的に止まります。原子炉は超低出力運転や停止直後、核毒(中性子を吸収し連鎖核反応を阻害する)Xe(ゼノン、キセノン)が発生し、臨界の維持が困難な過渡状態になります。

原子力安全の大原則として、多重防護の第一層を破壊する行為である低出力所内単独運転は禁じ手とされてきました。何か異常があれば「止める」です。多重防護の第二層です。

つまり、原発の「所内単独運転」は極めて危険だから全くの禁じ手だということです。

→宇佐美氏のブログの関連部分 コロラド先生のデマについて 2018.9.12

なお泊原発は短時間であれば所内単独運転できるので周波数が乱れただけで即座に落ちるということはないことをあらかじめ指摘しておく。

宇佐美氏が根拠としているのは原子力安全・保安院の「北海道電力㈱泊発電所1号機及び2号機の安全性に関する総合的評価(一次評価)に関する審査結果取りまとめ(案)」です。
では、牧田氏が推薦する一般書と、原子力安全・保安院のどちらを信じるかと言うと、私のような普通の人は後者でしょう。[たらーっ(汗)]

とはいっても、日本の役所は「原子力村」だから信用できない、という反論があるかもしれません。


そこで、牧田氏が根拠とする1996年の石川迪夫氏の著書より新しい、2015年の国際原子力機関による「多重防護の第二層」の解説を示しておききす。
読めばわかるように、きちんと設計されていれば「所内単独運転」は問題ないとあります。
なお、原文は英語です。

《原文》
IAEA-TECDOC-1770
Design Provisions for Withstanding Station Blackout at Nuclear Power Plants
International Atomic Energy Agency
Vienna, 2015

2.2.2. Second level of defense in depth
Some NPPs are designed to operate in an island mode such that the plant supplies power to its own auxiliary systems. This capability is available when the entire external load connected to the power plant is disconnected and there is no reactor or turbine trip. During this ‘house-load’ operating mode, the reactor operates at a reduced power level (typically 5% to 10% of full power) that is sufficient to generate enough electrical power to supply auxiliaries. This type of design affords an uninterrupted power supply for the house loads.

《仮訳》
IAEA-TECDOC-1770
原子力発電所における停電防止のための設計規定
国際原子力機関
2015年 ウィーン

2.2.2. 第2レベルの防御
原子力発電所の中には、単独で自らの所内システムに電力を供給し、所内独立運転ができるように設計されているものがある。 この機能は、発電所に接続された外部負荷全体が切断され、原子炉やタービンのトリップ[停止]がない場合に利用できる。 この「所内単独」運転モードの間、原子炉は、所内に供給するために低減された電力レベル(通常、定格出力の5%〜10%)で動作する。 このタイプの設計は、所内負荷のための中断のない電力供給を可能にする。

なお、この「所内単独運転」は、加圧水型原発である泊原発で実用化されています。
泊原発を建設した三菱重工によると、1985年に「所内単独運転」が可能とされています。

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実際に、大飯原発では、2005年に「所内単独運転」の実績があり、関西電力のホームページにその結果が掲載されています。

大飯発電所1,2号機の原子炉停止および3,4号機の所内単独運転について
大飯発電所(ともに加圧水型軽水炉 1,2号機:定格電気出力117.5万kW、3,4号機:定格電気出力118万kW)は、1号機が第20回定期検査中(定格熱出力一定運転にて調整運転中)、2,3,4号機は定格熱出力一定運転中のところ、本日8時49分から8時53分の間に、送電線系統(大飯幹線、第二大飯幹線)への雪の影響により送電が停止したため、所内単独運転となりました。
その後、1号機が8時57分、2号機が8時58分に、両号機とも「C−S/G水位高タービントリップ」により原子炉が自動停止しました。
また、大飯幹線を8時55分、第二大飯幹線を9時01分に復旧のうえ、大飯3,4号機については、10時14分に並列しました。今後、準備が整いしだい負荷を上昇していく予定です。  
なお、今回の事象による周辺環境への影響はありません。

参考までに、福島第一原発でも「所内単独運転」は可能だった模様です。

日本原子力学会誌 Vol. 11, No.5 (1969)
わが国の動力炉開発,(その5)
東京電力(株)福島[第一]原子力発電所
3. タービン発電機
主蒸気管から直接復水器へ導かれるバイパス系は発電所の起動,停止ならびに過渡変化に対処するためのもので,1号機ではこのほか全負荷遮断時にプラントが所内負荷のみで運転を継続できるよう定格蒸気流量の105%の容量のものをもっているが,2号機では25%容量として負荷遮断時には原子炉をスクラム[停止]させることとしている。

これまた参考までに、池田信夫氏のTweetです。
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どれが正しいかは皆さんに判断いただくとして、これらのことから、私は牧田氏の原発「専門家」としての知識に強い疑問を感じざるを得ません。[たらーっ(汗)]


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